中川用語集
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エクセルギー  エクマン層  エクマン螺旋  A-Dコンバータ   SI単位系  エネルギー等分配則  エマグラム(emagram)  遠心力 遠赤外線  エンタルピー  鉛直p速度  エントレインメント  

エクセルギー(exergy)

ある系からどれだけの仕事を取り出せるかを表す量。外界の温度と圧力が、それぞれ、T0とp0のとき、温度と圧力が、それぞれ、Tとpの系が持つエクセルギーは

E(T,p)=(U-U0)-T0(S-S0)+p0(V-V0)

と表される。
固体や液体のように熱容量Cが一定で体積変化が無視できる物体の持つエクセルギーは、

E(T,p)=(U-U0)-T0(S-S0)=C(T-T0)-CT0loge(T/T0)

と表される。

エクマン層(Ekman layer)

上層の自由大気中では乱流粘性力は無視でき、水平方向の運動方程式は、

-(1/ρ)∂p/∂x+fv=du/dt

-(1/ρ)∂p/∂x-fu=dv/dt

と表せる。ここで、ρ;密度、p;平均気圧、u;x軸方向の平均風速、v;y軸方向の平均風速、f;コリオリのパラメータである。自由大気中の水平風の変化は気圧傾度力とコリオリの力が釣合っているか否かだけが原因で発生することを意味している。しかも、瞬間値について成立している微分方程式が短期間の時間平均値を満足する。
ところが、地表面近傍では乱流粘性力は無視できず、水平方向の運動方程式は、

-(1/ρ)∂p/∂x+fv-(1/ρ)∂ρu'w'/∂z=du/dt

-(1/ρ)∂p/∂x-fu-(1/ρ)∂ρv'w'/∂z=dv/dt

と表される。ここで、ρu'w'およびρv'w'はレイノルズ応力を意味し、∂ρu'w'/∂zおよび∂ρv'w'/∂zは乱流粘性力を意味する。u'v'w'は、瞬間風速の平均風速からの偏差であり、乱流状態を表す。レイノルズ応力は乱流が存在することに起因しているが、乱流が存在すれば必ずレイノルズ応力あるいは乱流粘性力が存在する訳ではない。乱流による鉛直方向の風速の乱れと水平方向の風速の乱れに相関が存在し、その相関が鉛直方向に勾配を持っている場合には、乱流粘性力を無視できない。乱流粘性力を無視できない層を大気境界層と呼ぶ。大気境界層のうちの最下層は、乱流粘性力は無視できないが、風速が極めて小さいのでコリオリの力は無視できる。この層は、下部境界層または接地(境界)層と呼ばれる。接地境界層の上方には乱流粘性力は勿論コリオリの力も無視できない層が存在し、上部境界層と呼ばれるが、同層内部では鉛直水平風のホドグラフがエクマン螺旋と呼ばれる形状を呈することから、エクマン層とも呼ばれる。エクマン層の暑さは約1500mとされる。

エクマン螺旋(Ekman spiral)

エクマン層内の水平風のシアホドグラフが描く図形をエクマン螺旋と呼ぶ。エクマン層上端の水平風は地衡風であるが、エクマン層内の水平風は地表面摩擦応力の影響で地衡風より風速が小さく、地上では無風である。このため、エクマン層内の水平風は下層から上層に向かうほど強いコリオリの力をうけるため、右回りに回転するシアホドグラフが得られる。任意の高度の水平風ベクトルを地衡風ベクトルから引いた非地衡風ベクトルと同高度の風のシアーベクトルが常に45°の角度を保つので、シアホドグラフは等角螺旋となる。
地衡風に平衡な方向をx軸とすると、エクマン層内の水平方向の運動方程式は以下のように示される。

           fv-(1/ρ)∂ρu'w'/∂z=du/dt

-(1/ρ)∂p/∂y-fu-(1/ρ)∂ρv'w'/∂z=dv/dt

ここで、ρ;密度、u;x軸方向の風速、v;y軸方向の風速、w;z軸方向の風速、f;コリオリのパラメータ、t;時間である。
 は時間平均を意味し、'は時間平均からの偏差を意味する。ρu'w'およびρv'w'はレイノルズ応力を意味し、∂ρu'w'/∂zおよび∂ρv'w'/∂zは乱流粘性力を意味する。レイノルズ応力は拡散係数Kmを用いて、

-ρu'w'=ρKmu/∂z

-ρv'w'=ρKmv/∂z

と表し、更に、

-(1/ρ)∂p/∂y=fu

と表すと、上記の水平風の運動方程式は、

    fv+Km2u/∂z2=du/dt

u-fu+Km2v/∂z2=dv/dt

と表記できる。更に、水平風を

V=u+iv

と複素数表示して上記の水平風の運動方程式を複素数で表すと、

Km2V/∂z2=if(V-u)

となる。ここで、i:虚数単位(i2=-1)である。これは、D=∂( )/∂zと表すと、

(D2-if/Km)V=-ifu/Km

なので、特性方程式の解Dとして、

D=±(1+i)(f/2Km)0.5

が得られる。従って、基本解は

V=C1exp{(1+i)(f/2Km)0.5z}+C2exp{-(1+i)(f/2Km)0.5z}

すなわち、

V=C1exp{(f/2Km)0.5z}exp{i(f/2Km)0.5z}+C2exp{-(f/2Km)0.5z}exp{-i(f/2Km)0.5z}

となる。特殊解は、

V=1/(D2-if/Km)(-ifu/Km)=u

となるので、最終的には、一般解は、

V=C1exp{(f/2Km)0.5z}exp{i(f/2Km)0.5z}+C2exp{-(f/2Km)0.5z}exp{-i(f/2Km)0.5z}+u

となる。境界条件から定数を決定すると、先ず、z→∞ではV→uにならなければならないので、C1=0である。従って、

V=C2exp{-(f/2Km)0.5z}[cos{-(f/2Km)0.5z}+isin{-(f/2Km)0.5z}]+u

でなくてはならない。これが、z=0の時V=0+i0にならなければならないので、C2=-uである。つまり、

V=u+iv=-uexp{-(f/2Km)0.5z}[cos{-(f/2Km)0.5z}+isin{-(f/2Km)0.5z}]+u

だから、

u=u[1-exp{-(f/2Km)0.5z}cos{-(f/2Km)0.5z}]

v=-uexp{-(f/2Km)0.5z}sin{-(f/2Km)0.5z}

三角関数の引数の符号を変えると、

u=u[1-exp{-(f/2Km)0.5z}cos{(f/2Km)0.5z}]

v=uexp{-(f/2Km)0.5z}sin{(f/2Km)0.5z}

が得られる。これが、エクマン層内の高度zにおける水平風を与える式である。横軸にu、縦軸にvを目盛り、z=0から様々なzについて求めた上式の値をプロットして順に繋ぐと、エクマン層内のシアホドグラフが得られる。
上式から明らかなように、z=π/(f/2Km)0.5において、u=ug、v=0となる。この風は地衡風そのものであるので、この高度z=π/(f/2Km)0.5がエクマン層上限高度と判断される。拡散係数Km=10ms-1程度で、緯度40°におけるコリオリのパラメータfはf=2Ωsinφ=2×7.292×10-5×sin(40°)なので、エクマン層上限高度z=π/{7.292×10-5×sin(40°)/10}0.5=1451m程度と見積もれる。
高度zにおける非地衡風ng=ung+ivngは、

ung=uexp{-(f/2Km)0.5z}cos{(f/2Km)0.5z}

vng=-uexp{-(f/2Km)0.5z}sin{(f/2Km)0.5z}

であり、水平風のシアー∂/∂z=∂u/∂z+i∂v/∂zは、

u/∂z=u(f/2Km)0.5exp{-(f/2Km)0.5z}{cos[(f/2Km)0.5z}+sin{(f/2Km)0.5z}]

v/∂z=u(f/2Km)0.5exp{-(f/2Km)0.5z}{cos[(f/2Km)0.5z}-sin{(f/2Km)0.5z}]

と表される。水平風シアーを非地衡風で除すと、

(∂u/∂z+i∂v/∂z)/(ung+ivng)=(f/2Km)0.5(1+i)

となる。これは、エクマン層内の高度zにおける水平風のシアーは常に非地衡風の左45°の方向を向いており、その大きさは非地衡風の(f/2Km)0.5倍であることを意味している。このため、エクマン層内の水平風のホドグラフは螺旋を描く。この螺旋はエクマン螺旋と呼ばれている。

A-Dコンバータ(analog-to-digital converter)

アナログ入力電圧信号をそれに例したデジタル値に変換するデバイス。入力電圧Vを基電圧V0直接比較しながらデジタル化する電圧比較方式がもっとも良く知られている。入力電圧Vと基電圧V0比較して、入力電圧Vが基電圧V0を上回っている場合には、デジタル値1を立て、入力電圧Vから基電圧V0減じた後2倍する。入力電圧Vと基電圧V0を比較して、入力電圧Vが基電圧V0を下回っている場合には、デジタル値0を立て、入力電圧Vから基電圧V0を減じた後2倍する。この値が基準電圧0を上回っている場合には、デジタル値に1/2を加え、基電圧V0を減じた後2倍し、基電圧V0を下回っている場合には、デジタル値を加えずに基電圧V0を減じた後2倍する。この値が基準電圧V0を上回っている場合には、デジタル値に1/4を加え、基電圧V0を減じた後2倍し、基電圧V0を下回っている場合には、デジタル値を加えずに基電圧V0を減じた後2倍する。以下、この作業をn段階繰り返すと、

デジタル値=a1+a2/2+a3/4+a4/8+a5/16+・・・+an/2n-1

が得られる。a1,a2,a3,a4,a5,...,anは0または1の整数である。このデジタル値に基準電圧0掛ければ入力電圧の測定値を得ることができる。即ち、

入力電圧の測定値=
基準電圧0×(a1+a2/2+a3/4+a4/8+a5/16+・・・+an/2n-1)

である。nは電圧比較作業の回数を意味しており、A-Dコンバータのビット数と呼ぶ。原理的には、ビット数nを∞にすれば精密な測定値を得ることができる。明らかに、aiがすべて1で、nが∞の時には、デジタル値は2に収束するので、基準電圧0の2倍の電圧までしか測定できないことが分かる。また、ビット数を∞にすることは不可能なので必ず有限数で打ち切られるため、測定値の分解能には限界がある。

SI単位系(international system of units)

国際単位系のこと。

エネルギー等分配則(principle_of_equipartition_of_energy)
外界と熱平衡にある系の内部エネルギーは,各自由度に (1/2)kBT のエネルギーが均等に分配される、とする法則。ここで、kB;ボルツマン定数(=1.3804×10-23 J/K)である。
エマグラム(emagram)
 大気の鉛直構造の解析に役立つ線図を高層気象線図と呼ぶ。高層気象線図は、一般的には、断熱図(或いは偽断熱図)、気団線図、可降水量線図に3分される。断熱図とは、気圧p、気温T、あるいはこれらの適当な関数を縦軸および横軸として、等圧線、等温線、乾燥断熱線、湿潤断熱線、飽和等比湿線(或いは飽和等混合比線または飽和等比張線)などを描いた線図であり、
(1)高度計算
(2)気象諸量の計算
(3)ソレノイドおよびエネルギー計算
(4)安定性の解析
(5)対流現象の予報への応用
(6)気団分析
等に用いられ、最も用途の広い高層気象線図である。断熱図には、縦軸、横軸の取り方により、多数の種類があるが、1884年にドイツのHeinrich Hertzにより提唱された、縦軸に−Rℓnp、横軸にTを目盛ったものはエマグラムと呼ばれており、わが国の気象学では最も良く用いられている。
 エマグラムは、かつては日本気象協会から市販されていたが、日本気象協会の出版事業を引き継いだ潟Nライムが販売を廃止したため、現在では市販品の入手は不可能となっている。そこで、立正大学地球環境科学部環境システム学科環境気象学分野(福岡義隆、中川清隆、渡来靖)では、教育・研究目的で、独自のエマグラムを作成した(下図参照)。

(立正大学地球環境科学部環境システム学科環境気象学分野(福岡義隆、中川清隆、渡来靖)製エマグラム β版) 

遠心力(centrifugal_force)
向心力に対する慣性力。曲率半径Rの軌道上を回転速度ωで円運動している質量mの物体には、

mRω2

の遠心力が働く。曲率半径Rの回転速度ωの物体のもつ接線速度vは、

v=Rω

なので、遠心力は、

mv2/R

と表現することも出来る。

遠赤外線(far infrared radiation)
波長4μm〜1000μmの電磁波の呼称。電磁波は、波長が短い方から順に、X線<1nm<紫外線<0.4μm<可視光線<0.7μm<赤外線<1mm<マイクロ波<1m<ラジオ波と区分されるのが一般的であり、赤外線は更に、0.7μm<近赤外線<2μm<中間赤外線<4μm<遠赤外線<1000μmに区分される。遠赤外線は波長が長い為、物質の内部によく浸透し、また、ほとんどの有機物の吸収帯がこの波長域にあるためよく吸収され、全体を効率よく温める性質を持つ。特に遠赤外線の中の中間赤外線に近い4μm〜14μmの波長帯は「育成光線」と呼ばれ、動植物が必要な光線であり、人体細胞の活性化・血行促進など健康に良い効果も持っている。太陽放射エネルギーの99%以上は4μmより波長が短い電磁波であり短波放射と呼ばれ、地球物質起源の放射エネルギーの99%以上は4μmより波長が長い電磁波であり長波放射と呼ばれており、長波放射は遠赤外線である。
エンタルピー(enthalpy)
次の式で表される量H。

H=U+pV

ここで、H;エンタルピー、U;内部エネルギー、p;圧力、V;体積である。pVは、体積の仕事または等圧過程における流れの仕事と呼ばれる。エンタルピーの変化dHは

dH=dU+pdV+Vdp

と表され、熱力学の第一法則

dQ=dU+pdV

と極めて類似しており、等圧過程(dp=0)において系が吸収した熱量dQに等しいので、エンタルピーは熱関数とも呼ばれる。
状態方程式

pV=nRT

を代入すると、上式は、

H=U+nRT

とも表現できる。ここで、n;気体の質量、R;当該気体の気体定数である。従って、単位質量の気体に対して上式を考えると、

h=u+RT

の表現が得られる。この場合、h;比エンタルピー、u;比内部エネルギーと呼ぶ。
等圧過程における比エンタルピーの変化は、

dh=du+RdT

と表記される。比内部エネルギーの変化は、

du=CvdT

と表されるので、等圧過程における比エンタルピーの変化は、

dh=CvdT+RdT

と表記できる。ここで、Cv;定積比熱である。マイヤーの関係式

CdT=CvdT+RdT

から、

dh=CdT

従って、

h=CT

である。比エンタルピーCTは顕熱とも呼ばれる。

鉛直p速度(vertical p-velocity)
気圧pを鉛直軸とする等圧面座標系(x,y,p,t)において、空気塊の高度を表わす気圧pの時間変化率dp/dtをωと表記して、鉛直p速度と呼ぶ。
等圧面座標系に存在する物理量ψの場は、

ψ(x,y,p,t)

と表現される。この物理量ψの全微分dψは

dψ=(∂ψ/∂x)dx+(∂ψ/∂y)dy+(∂ψ/∂p)dp+(∂ψ/∂t)dt

でなので、物理量ψのラグランジュ流変化率dψ/dtは

dψ/dt=(∂ψ/∂x)(dx/dt)+(∂ψ/∂y)(dy/dt)+(∂ψ/∂p)(dp/dt)+∂ψ/∂t

と表現できる。dx/dtおよびdy/dtは水平風速成分uおよびvそのものであるから、上式は、

dψ/dt=u(∂ψ/∂x)+v(∂ψ/∂y)+(dp/dt)(∂ψ/∂p)+∂ψ/∂t

と表記される。これを直交座標系(x,y,z,t)における物理量ψのラグランジュ流変化率dψ/dt

dψ/dt=u(∂ψ/∂x)+v(∂ψ/∂y)+w(∂ψ/∂z)+∂ψ/∂t

と比較すると、

(dp/dt)(∂ψ/∂p)≒w(∂ψ/∂z)

であることが示せる。ここで、w;鉛直速度である。従って、

ω=dp/dt≒w(∂p/∂z)=-ρgw

である。ここで、ρ;空気密度、g;重力加速度である。即ち、鉛直p速度ωは、速度の次元は持たないが、物理量ψの鉛直速度wに比例し、逆符号である。

エントレインメント(entrainment)
既存の風系に周囲の別の風系が捕獲される混合をエントレイトメントと呼ぶ。熱帯低気圧の乾気の捕獲や、積雲対流の際の側面空気の捕獲、或いは、安定層下端部における混合層発達の際の混合層上端での上層安定層下部空気の捕獲などが問題とされることがある。

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