静止衛星投影図法 (geostationary
projection)
地球の中心から42164km離れた静止衛星を光源として光を出して、軸が赤道直径と一致し、衛星の反対側で地球に接する投影面上に衛星側地球表面上の点を投影して2次元の図を作成する図法。equatrial
tangent azimuthal external perspective projection(横軸接方位外射図法)に相当する。
地球を完全な球と仮定すると、北緯φ、東経λの地点の地心距離αRの衛星を光源としたequatrial
tangent azimuthal external perspective projection(横軸接方位外射図法))による投影面上の座標xとyは
x= (α+1)R〔-cosφsin(λ-λ0)/{α-cosφcos(λ-λ0)}〕
y= (α+1)R〔-cosφsin(λ-λ0)/{α-cosφcos(λ-λ0)}〕tan[sin-1〔-sinφ/{α2-2αcosφcos(λ-λ0)+1}0.5〕]/sin[tan-1〔-cosφsin(λ-λ0)/{α-cosφcos(λ-λ0)}〕]
として定まる。ここで、R;地球の半径、λ0;衛星直下の東経である。地球の静止衛星の軌道半径はαR=42164kmであり、地球の平均半径はR=6371.0kmなので、α=6.6181であり、
x=48535〔-cosφsin(λ-λ0)/{6.6181-cosφcos(λ-λ0)}〕
y=48535〔-cosφsin(λ-λ0)/{6.6181-cosφcos(λ-λ0)}〕tan[sin-1〔-sinφ/{44.79925-13.2362cosφcos(λ-λ0)}0.5〕]/sin[tan-1〔-cosφsin(λ-λ0)/{6.6181-cosφcos(λ-λ0)}〕]
となる。衛星からは衛星を通る地球の接面の内側の地表面しか見えない。言い換えると、衛星からの距離が
Rtan{cos-1(R/αR)}=6371.0tan{cos-1(6371.0/42164)}=41679.9km
以内の地表面しか見えない。しかるに、北緯φ、東経λの地表面からの衛星までの距離は
R{α2-2αcosφcos(λ-λ0)+1}0.5=6371.0{43.79925-13.2362cosφcos(λ-λ0)+1}0.5
なので、視野境界の緯度φと経度λは次式
41679.9=6371.0{44.79925-13.2362cosφcos(λ-λ0)}0.5
を満たす。即ち、静止衛星からは
cosφcos(λ-λ0)=0.151086
を満たすφ、λ-λ0以内の地表面しか見えない。即ち、φ=0の赤道上では、λ=λ0±81.3°が視野の限界であり、λ=λ0の基準子午線上では、φ=±81.3°が視野の限界である。
わが国の気象学分野で目に付く静止衛星投影図法の例として、衛星直下の東経λ0=140°Nの静止気象衛星MTSAT(ひまわり6号)のFull
Disk(全球)画像があげられる。
(http://www.jma.go.jp/en/gms/imgs/6/infrared/1/200510310000-00.pngより)
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静水圧平衡(静力学的平衡)
(hydrostatic equilibrium)
地球大気は空気からなり、重力場の中に存在する。重力加速度gの大きさは、厳密には、緯度、高度により異なるが、気象学ではg=9.80665m/s2で一定として扱う。重力の方向が鉛直方向であり、重力に垂直な方向に地平面が形成される。重力のため空気は下層に集中する。集中した空気粒子同志が衝突して圧力が生じる。圧力は空気粒子が集中するほど大きくなるので、地球大気系では鉛直上向きの方向に圧力は減少する。
頭上に存在する空気の重さにより生じる圧力を気圧と呼び、通常、pと表記する。単位体積の空気塊が受ける重力ρgを高度zから大気上限(z=∞)mまで積分すれば得られるので、
∞
p=-∫ρgdz
z
と表記できる。従って、zが異なれば当然pも異なる。上式をzで微分すれば、
dp=-ρgdz
上式の−はzの増加方向とpの増加方向が逆となることを考慮して付けてある。この式を、静水圧平衡の式(静力学方程式)と呼ぶ。
静水圧平衡の式(静力学方程式)は、
-(1/ρ)dp/dz=g
と変形できる。左辺を単位質量当たりの空気に対する鉛直方向の気圧傾度力、右辺を重力と呼び、両者はつりあっている。即ち、地球大気の中では、単位質量の空気に下向きに作用する重力に対抗する上向きの気圧傾度力を生じさせるために、下層が高圧で上層が低圧な圧力分布を大気自身が形成している。
鉛直方向の気圧傾度力と重力がつり合っている状態を静水圧平衡(静力学的平衡)と呼ぶ。
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成熟閉塞コンマ雲(mature, occluded comma cloud)
閉塞低気圧に伴なうコンマ雲。コンマ雲の最も発達した段階。
中緯度低気圧が閉塞低気圧となってジェット気流から切離された段階の成熟しきったコンマ雲。切離低気圧は上層と地上の中心の位置が極めて近く、渦軸がほぼ垂直になっているため、これ以上重心を下げて位置エネルギーを開放することができないので、これからは衰弱段階に入る。切離低気圧の南東側の幅広いV字状のノッチを形成しているドライスロットの東側に閉塞前線、寒冷前線および温暖前線が一点に集まり三重点を形成し、三重点の上空をジェット気流が横断している。三重点に新たな中緯度低気圧が発生し発達中である。
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静的安定(static
stability)
鉛直方向に変位した静水圧平衡状態にある静止大気中の空気塊が元の位置に戻ろうとする時、静的安定と呼び、さらに変位しようとする時、不安定と呼び、その度合いを静的安定度と呼び、Sと表記する。静的安定度Sは、
S=-(α/g)∂lnθ/∂p
と定義されている。ここで、α;比容、g;重力加速度、θ;温位、p;気圧である。この式は、
S=-RT/(pgθ)∂θ/∂p
と変形できるので、
S=(∂p/∂z)/θ(∂θ/∂p)
となり、これはさらに、
S=(1/θ)∂θ/∂z
と表される。即ち、静的安定度Sの符号は、温位勾配
∂θ/∂z の符号により定まる。
気象学では、通常の温位θの他に、相当温位θeおよび飽和相当温位θe*も用いて静的安定度を区分する。一般に
θ≦θe≦θe*
である。
∂θ/∂z≦0 の時、絶対不安定と呼ぶ。
∂θ/∂z>0 で現在は安定であるが、∂θe/∂z≦0
の時、気層全体が上昇すれば不安定に至るので、この状態を対流不安定と呼ぶ。
∂θ/∂z>0 で現在は安定であるが、∂θe*/∂z≦0
の時、気層全体がその場で水蒸気により飽和されれば不安定に至るので、この状態を条件付不安定と呼ぶ。
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静力学方程式(hydrostatic
equation)
地球大気中で静水圧平衡(静力学的平衡)が成り立っている場合に成り立つ以下の式。
dp=-ρgdz
ここで、p;気圧、ρ;密度、g;重力加速度、z;高度である。大気中において高度を変えて気圧を調べると、高度の変位に比例して気圧が変化することを意味する。一般の気象現象において静力学方程式は必ず成り立つ基本的な法則である。
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積雲(cumulus)
地上から上昇する熱胞が持上げ凝結高度を超えた部分に発生するカリフラワーのような形状をした雲で、雲底は灰色を呈し、雲頂部は明るい。持上げ凝結高度はほぼ水平なので、積雲の雲底は平坦。小さな積雲は好天を意味し、好天積雲(good
weather cumulus)と呼ばれるが、積雲の雲頂が自由対流高度を超えると極端に鉛直方向に発達し塔状積雲(towering
cumulus)ないしは雄大積雲(cumulus congestus)を形成し、圏界面にまで達すると雲頂部に雲頂が平坦なかなとこ雲(anvil
cloud)をつけた積乱雲(cumulonimbus)を形成する。これらは暗黒色の雲底を持ち雷雨をもたらすことが多い。
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赤道無風帯(doldrums, equatorial calm zone)
大西洋および太平洋の南半球貿易風と北半球貿易風の間の静穏ないしは軽風のベルト状の地域。亜熱帯無風帯と同様、スペイン航海時代起源の用語。
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絶対渦度(absolute vorticity)
相対渦度ζと惑星渦度ζp(コリオリのパラメータ)の和ζ+ζpを絶対渦度と呼び、ζaと表記する。
相対渦度ζは
ζ=∂v/∂x-∂u/∂y
と表される。ここで、v;x軸(東)方向の風速、u;y軸(北)方向の風速である。相対渦度ζは地表面に対する空気塊の平均回転角速度の2倍に相当する。
惑星渦度ζpはコリオリのパラメータfに等しく、
ζp=f=2Ωsinφ
と表される。ここで、Ω;地球の回転角速度、φ;緯度である。Ωsinφは地表面の鉛直軸の周りの回転角速度なので、その2倍に相当するオリオリのパラメータfは、宇宙空間に対する地表面の渦度と位置づけることができるので、惑星渦度または地球渦度と呼ばれることがある。
従って、相対渦度と地球渦度(コリオリのパラメータ)の和
ζ+ζp=ζ+f
即ち、絶対渦度ζaは、宇宙空間に対する空気塊の回転角速度の2倍に相当する。
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絶対湿度(absolute humidity)
1m3の空間内に存在する水蒸気の質量をg単位で表したもの。水蒸気密度をg/m3で表現したものと位置づけることができる。
水蒸気の状態方程式は
ev=nw/mwR*T
と表記される。ここで、e;水蒸気圧(Pa)、v;体積(m3)、nw;水蒸気の質量(kg)、mw;水蒸気の分子量(kg)、R*;普遍気体定数、T;気温(T)である。
nw/v=mw/R*(e/T)
と変形して、
R*=8314
mw=18.01
v=1
を与えると、
nw=0.00217(e/T)
となる。上式ではeはPa単位であるが、これをhPa単位にすると、
nw=0.217(e/T)
となる。この式の値の単位は、kg/m3であり、水蒸気の密度そのものである。これを、絶対湿度の単位g/m3に変換するために、1000倍してやり、その値をaと表記すれば
a=217(e/T)
が得られる。
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摂動(perturbation)
平衡状態からの揺らぎを摂動と呼ぶ。物理量の瞬間値θは平衡状態の値θとそれからの摂動θ'の和
θ=θ+θ'
として表現できる。
上式の平均を求めると、
θ=θ+θ'=θ+θ'
であるが、
θ'=0
なので、
θ=θ
である。
摂動θ'は完全にはランダムではなく、調和振動が含まれている場合が多いので、摂動θ'は単振動
θ'=Re{Θei(kx+ly+mz-νt)}
として表現されることが多い。ここで、Θ;振幅、i;虚数単位、k,l,m;x,y,z方向の波数、ν;振動数であり、Re{ }は複素数の実数部を意味する。この単振動のx,y,z方向の位相速度は、それぞれ、ν/x,ν/y,ν/zと表される。
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摂動法(perturbation method)
支配方程式が非線型方程式である場合に、摂動を利用して支配方程式を線形化する方法を摂動法と呼ぶ。摂動法においては、次の手順が取られる。
(1)当該の支配方程式の変数を平衡値と摂動により表現する。
(2)当該の支配方程式は変数の平衡値だけでも成立すると仮定し、その成分を消去する。
(3)高次の摂動は極めて小さいとして無視する。
(4)以上により、当該の支配方程式の変数の摂動が従わなくてはならない式は摂動に関する線型方程式になっており、摂動方程式と呼ばれることがある。
(5)支配方程式は複数あるのが一般的であるので、すべての支配方程式を摂動表現する。
(6)摂動を調和振動とみなし、例えば、θの摂動θ'を単振動
θ'=Re{Θei(kx+ly+mz-νt)}
と表現し、この表現を上記の摂動方程式に代入する。ここで、Θ;振幅、i;虚数単位、k,l,m;x,y,z方向の波数、;振動数であり、Re{ }は複素数の実数部を意味する。
(7)その結果、支配方程式の変数の摂動の振幅に関して1次の連立同次代数方程式が得られる。
(8)支配方程式の変数の摂動が正の振幅を持つためには、上記の連立同次代数方程式の係数の行列式がゼロにならなければならないので、実際にその行列式の値を求めてゼロとおくと、支配方程式の変数の数を次数とする振動数に関する高次方程式が得られ、振動数方程式と呼ばれる。
(9)振動数方程式の解νは振動数方程式の次数の数だけあるので、当該の支配方程式の系にはその次数通りの振動のモードが存在することになる。
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摂動方程式(perturbation
equation)
非線型方程式の被微分変数を摂動を用いて表現した式を摂動方程式と呼ぶ。摂動方程式を求めるためには、次の手順が取られる。
(1)当該方程式の変数を平衡値と摂動により表現する。
(2)当該方程式は変数の平衡値だけでも成立すると仮定し、その成分を消去する。
(3)高次の摂動は極めて小さいとして無視する。
(4)以上により求まる、当該方程式の変数の摂動が従わなくてはならない線型方程式を摂動方程式と呼ぶ。
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全圧(total pressure)
混合気体全体の圧力。混合気体の構成成分気体の圧力は分圧と呼ばれ、混合気体の全圧力は、全構成成分気体の分圧の総和に等しい。例えば、湿潤空気は乾燥空気と水蒸気の混合気体であるので、気圧が全圧であり、乾燥空気圧と水蒸気圧が、それぞれの成分の分圧である。
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全位置エネルギー(total
potential energy)
地上から高度hまでの大気柱が持っている内部エネルギーと位置エネルギーの和を全位置エネルギーと呼び、一般に、Eと表記する。
p0
E=(cp/g)∫Tdp
ph
である。ここで、;地上気圧、;高度hの気圧、;定圧比熱、;重力加速度、;温度である。
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旋衡風(cyclostrophic wind)
原点を中心とする同心円状の気圧分布に対する傾度風においては、次式
-(1/ρ)∂p/∂r+fv+v2/r=0
が成り立つ。ここで、-(1/ρ)∂p/∂r:気圧傾度力、fv:コリオリの力、v2/r:遠心力である。 低気圧性の気圧傾度が極めて大きい時、
fv≪v2/r
となるため、fvを無視でき、近似的に、
-(1/ρ)∂p/∂r+v2/r=0
が成り立つ。つまり、気圧傾度力と遠心力のみで釣合いがとれた状態が出現しうる。この時吹く風を旋衡風と呼ぶ。
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前線(front)
密度の異なる空気塊の境界面である前面と地表面との交線を前線と呼ぶ。水平面の気圧の地域差は小さいため密度差はほぼ気温差に依存するので、前線は、気温の不連続線(寒気団と暖気団との境界線)と、実質的に、同一であり、風向、風速の変化や降水を伴っていることが多い。前面も前線も、幾何学的な面や線とは異なり、厚さや幅を持っており、それぞれ、転移層、前線帯と呼ばれる。前面の厚さである転移層の厚さは1〜2kmあり、約1°の勾配を持っているので、前線帯は100〜200kmの幅を持つ。天気図上では、前線は、前線帯の暖気側の境界に描画される。
前線は、その挙動と構造によって、温暖前線、寒冷前線、閉塞前線、停滞前線の4種類に分類される。温暖前線は、寒気団側へ移動する前線であり、通常は、前線の通過後に気温が上がる。寒冷前線は、暖気団側へ移動する前線で、通常は、前線の通過後に気温が下がる。閉塞前線は、寒冷前線の移動が速くなって温暖前線に追いついた状態の前線で、寒冷前線後方の寒気が温暖前線前方の寒気の上に乗り上げる形のアナ型閉塞前線と、寒冷前線後方の寒気が温暖前線前方の寒気の下に潜り込む形のカタ型閉塞前線に細分される。停滞前線は、ほぼ同じ位置にとどまっている前線である。
前線は、総観規模以上のスケールの気温の不連続線(寒気団と暖気団との境界線)に対する呼称であり、メソスケールの気温の不連続線は単に不連続線、風向風速の不連続線はシアーラインと呼んで、区別されている。
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前線霧(frontal fog)
前線帯や前線通過に伴って発生する霧。前線霧は、温暖前線前方霧、寒冷前線後方霧、および前線通過霧に3分される。温暖前線前方霧、寒冷前線後方霧は、ともに、前線近傍の寒気の中への降雨により露点(即ち相対湿度)が上昇した結果飽和状態に至って発生する。前線通過霧には、前線の両側の寒気と暖気の混合により和状態に至って発生する混合霧と、前線帯に伴って移流してきた湿潤空気の急激な冷却により和状態に至って発生する移流霧がある。
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前線低気圧(frontal cyclone)
前線を伴った低気圧。温帯低気圧とか移動性低気圧と呼ばれることが多い。熱帯低気圧やポラーローなどの前線を伴わない低気圧と区別する際の用語。波動低気圧とほとんど同義。
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前線における等圧線の屈曲(kink
in the isobars across fronts)
面前に沿ってy軸を置き、正のx領域を気温T1、密度ρ1の寒気、負のx領域を気温T2、密度ρ2の暖気が覆っているとする。前面の両側の気圧は等しいので前面に沿った気圧の全微分も等しく、
dp=(∂p/∂x)1dx+(∂p/∂y)1dy+(∂p/∂z)1dz=(∂p/∂x)2dx+(∂p/∂y)2dy+(∂p/∂z)2dz
が成り立つ。これを変形すると、前面(y軸)に沿っては、
(∂p/∂y)1=(∂p/∂y)2
なので、
tanα=dz/dx=-{(∂p/∂x)1-(∂p/∂x)2}/{(∂p/∂z)1-(∂p/∂z)2}
を得る。状態方程式より、
(∂p/∂z)1=-ρ1g、 (∂p/∂z)2=-ρ2g
なので、上式は、
tanα={(∂p/∂x)1-(∂p/∂x)2}/{(ρ1-ρ2)g}
となる。この式は、前面の勾配を与える式である。更に、前面の両側で吹いている風がともに地衡風であると仮定できる場合には、この式は、マルグレスの式と呼ばれる表現になる。
y軸を挟んでx<0領域に暖気、x>0領域に寒気が存在している状態を想定してるので、常に
tanα=dz/dx>0
であり、かつ、
ρ1-ρ2>0
であるから、上式が成り立つためには、常に
(∂p/∂x)1-(∂p/∂x)2>0
でなくてはならない。これは、
(∂p/∂x)1>(∂p/∂x)2
を常に成り立たたせるために、前線に垂直な方向の水平気圧傾度が、常に、寒気側の方が暖気側より大きい状態になることを意味する。この様な前線に垂直な方向の水平気圧傾度分布は、3通りありうる。
(1)先ず、前線の両側で前線に垂直な方向の水平気圧傾度が正である場合。即ち、
(∂p/∂x)1>(∂p/∂x)2>0
の場合は、寒気側が高圧で、かつ、寒気側で気圧傾度の絶対値が更に大きくなるように前線部分で等圧線が折れ曲がらねばならない。
(2)次に、前線の両側で前線に垂直な方向の水平気圧傾度が負である場合。即ち、
0>(∂p/∂x)1>(∂p/∂x)2
の場合は、寒気側が低圧で、かつ、寒気側で気圧傾度が更に小さくなるように前線部分で等圧線が折れ曲がらねばならない。
(3)最後に、前線の両側で前線に垂直な方向の水平気圧傾度が逆転する場合。即ち、
(∂p/∂x)1>0>(∂p/∂x)2
の場合は、前線上が最も低圧で、寒気側も暖気側も、前線から遠ざかるにつれて気圧が高くなるように前線部分で等圧線が折れ曲がらねばならない。
以上の考察のごとく、前線における等圧線の折れ曲がり方は常に低気圧性になっている。
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前線の衰弱, 前線の消滅(frontolysis)
前線ないしは前線帯の衰弱書滅段階を指す用語で、通常は、気団の最も代表的な属性である密度の水平勾配が減少し、前線活動に伴う風速が減少する状況を指す。その逆の状況を、前線の発生または発達frontogenesisと呼ぶ。
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前線の発生, 前線の発達(frontogenesis)
前線ないしは前線帯の形成初期段階を指す用語で、通常は、気団の最も代表的な属性である密度の水平勾配が増加し、前線活動に伴う風速が増加するする状況を指す。その逆の状況を、前線の衰弱または消滅frontolysisと呼ぶ。
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前線波動(frontal wave)
地上天気図の前線が水平方向の波動のように変形している部分を指す用語。前線波動は、通常、温帯低気圧の生成期およびメソ擾乱の生成期に相当しており、その後、発達して波動低気圧ないしは前線低気圧になることがある。
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前線雷(frontal thunderstorm)
前前線に伴う上昇気流により発生した雷雨、ないしは前線性の上昇気流により生成され組織化された対流系内の雷雨を指す用語。界雷とも呼ぶ。
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潜熱(latent heat)
物質に熱量が出入りしているにもかかわらず、温度も圧力も変化しないで、熱量の出入りに応じて、準静的に物質が共存している一方の相から他方の相へ変化する変化を等温等圧変化と呼び、等温等圧変化の際に出入りする熱量を潜熱と呼ぶ。これに対して、等圧状態で相変化を伴わず温度だけが変化する際に出入りする熱量を顕熱と呼ぶ。
等温等圧変化は、あらゆる物質の固体、液体、気体3相のうちのあらゆる2相共存領域で発生しうるが、地球大気中の気象において相変化が実際に発生する物質は水蒸気に限られるので、気象学では、気体と液体の水物質の共存領域で発生する等温等圧変化が極めて重要である。気体と液体の水物質の共存領域における等温等圧変化の際に出入りする潜熱を蒸発の潜熱Lwvという。気体と固体の水物質の共存領域における等温等圧変化の際に出入りする潜熱を昇華の潜熱Livという。固体と液体の水物質の共存領域における等温等圧変化の際に出入りする潜熱を融解熱Liwという。気象学において、特に断わり無く潜熱Lという場合は、蒸発の潜熱Lwvをさす。
液体の水1kgが、温度T、圧力Eの等温等圧変化のもとに潜熱Lを得て、1kgの水蒸気になったとすると、その間のエネルギー保存則は以下のように表現できる。
L=T(sv-sw)=uv-uw+E(αv-
αw)
ここで、s;比エントロピー、u;内部エネルギー、α;比容、T;気温、E;飽和水蒸気圧である。
αvは1kgの水蒸気の体積であり、αwは1kgの液体の水の体積である。
水蒸気の状態方程式が
Eαv=(R/ε)T
と表現できることから、水蒸気の比容αvは
αv=(R/ε)T/E
で求めることができ、0℃と100℃の時の飽和水蒸気圧は、それぞれ、6.11hPaと1013.25hPaだから、水蒸気の比容
αvは206.2777m3と1.699m3である。液体の水の比容αwは0.001m3であるから、水蒸気の比容αvに比べると圧倒的に小さいので、事実上無視できる。従って、上式は
L=uv-uw+Eαv
ということになる。さらに、水蒸気の状態方程式から、
L=uv-uw+(R/ε)T
と表現することが出来る。
この等式はある温度Tと圧力Eにおいて成り立っているが、等温等圧変化はその温度T、圧力Eとは異なる温度T+dT、圧力E+dEでも発生しうる。この等温等圧変化が発生する温度と圧力の間の関係を調査するためには、上式の全微分を取ればよい。
即ち、
dL=duv-duw+(R/ε)dT
である。ところが、内部エネルギーの変化は温度の変化に比例しているので、各々、
duv=CvvdT
duw=CwdT
と表現できる。ここで、Cvv;水蒸気の定積比熱、Cw;液体の水の比熱である。
従って、上式は、
dL={Cvv+(R/ε)}dT-CwdT
と表現される。さらに、定積比熱、定圧比熱と気体定数の関係(マイヤーの関係式)
Cvp=Cvv+(R/ε)
を利用すると、この式は、
dL=(Cvp-Cw)dT
と整理できる。これは極めて単純な微分方程式なので、基準温度T0における潜熱をL0と置けば、この方程式の解は、
L=L0+(Cvp-Cw)(T-T0)
となる。そこで、T0=273.15Kとすれば、T-T0(=t)は摂氏の温度目盛りとなるので、この式は、
L=L0+(Cvp-Cw)t
と表現することができる。即ち、潜熱は温度の線形関数となる。
この積分を正確に実施すれば、潜熱の温度の関数としての正確な表現が得られそうであるが、この式を導くさいに1kgの液体の水の体積αwを無視しているので、完璧な値は求まらない。
温度の関数としての潜熱Lの式としては、次ぎのような実験式
L=596.73-0.601t
が知られている。単位はcal/gである。SI単位系に換算すると
L=2497315-2515t
となる。単位はJ/kgである。
融解熱Liwについても次のような実験式
Liw=333544
が知られている。J/kg単位である。
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