中川用語集
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山谷風系 (mountain–valley wind systems)

総観場の風が弱い完全快晴ないしは快晴の期間に山間の谷間で吹く局地風の日変化を山谷風系と呼ぶ。局地風の日変化は、昼間の斜面滑昇風(up-slope(anabatic) 風)と河床上流方向へのup-valley風(up-canyon風、valley風)と、夜間の斜面滑降風(down-slope(katabatic) )と河床下流方向へのdown-valley風(down-canyon風、mountain風)から構成されている。上記4成分風の上層には循環を閉じるための補償流(反対流、反流)が存在すると看做され、山谷風系の斜面成分はalong-slope風系と呼ばれ、山谷風系の河床方向成分はalong-valley風系と呼ばれる。
 典型的な山谷風系の日変化は、以下のように振舞うと考えられている。日出後、日射を吸収する日向斜面近傍の空間に同高度の谷間上空の空間に比べて暖気が形成され、その日向斜面近傍の暖気上端部が谷間上空の寒気上端部に比べて高圧になる。このため斜面暖気上端部から谷間寒気上端部へ向かって形成される気圧傾度に従って空気塊が移動する結果、谷間寒気下端部は高圧となり斜面暖気下端部は低圧となるので、下層では河床部から斜面に向かう気圧傾度が形成され空気塊が移動して斜面滑昇風(up-slope(anabatic) 風)となる。上層が収束場、下層が発散場になった河床上空では下降気流が形成される。こうして、日中のalong-slope風系が形成される。このalong-slope風系が斜面で加熱された空気塊を谷間上空に収束させ、さらにその暖気を下降気流によって断熱昇温させるので、谷間空間は平野部上空に比べて暖気が蓄積される結果、谷間の暖気上端部が平野部の寒気上端部に比べて高圧になる。このため谷間暖気上端部から平野部寒気上端部へ向かって形成される気圧傾度に従って空気塊が移動する結果、平野部寒気下端部は高圧となり谷間暖気下端部は低圧となるので、下層では平野部から谷間に向かう気圧傾度が形成され空気塊が移動して河床上流方向へのup-valley風(up-canyon風、valley風)となる。up-valley風の上層には反流が形成され、日中のalong-valley風系が形成される。こうして、日中の山谷(mountain–valley)風系が形成されると看做されるが、その通りの風系が実際に観測される場合もあればされない場合もある。up-valley風とその上層の反流(along-slope風系)は日中から日没後まで続くとするのが古典的なモデルであるが、実際には、半乾燥気候地域(または乾季)では、しばしば、ボーエン比が大きくて地表面顕熱流束が強い中盤以降の午後のほとんどの期間、境界層の対流により混合された河谷上層の風が地上にまで至ってup-valley風とその上層の反流(along-slope風系)の出現が遮られることがあるからである。
 地表面熱収支が反転し斜面近傍の空気塊が冷却されるようになると、山谷(mountain–valley)風系の交代が始まる。冷却された斜面近傍の空間に同高度の谷間上空の空間に比べて冷気が形成され、その斜面近傍の冷気上端部が谷間上空の暖気上端部に比べて低圧になる。このため谷間寒気上端部からへ斜面暖気上端部向かって形成される気圧傾度に従って空気塊が移動する結果、谷間暖気下端部は低圧となり斜面寒気下端部は高圧となるので、下層では斜面から河床部に向かう気圧傾度が形成され空気塊が移動して斜面滑降風(down-slope(katabatic) 風)となる。上層が発散場、下層が収束場になった河床上空では上昇気流が形成される。こうして、日中とは逆回転の夜間のalong-slope風系が形成される。このalong-slope風系が斜面で冷却された空気塊を谷間上空下層に収束させ、さらにその冷気を上昇気流によって断熱冷却させるので、谷間空間は平野部上空に比べて冷気が蓄積される結果、谷間の冷気上端部が平野部の暖気上端部に比べて低圧になる。このため平野部暖気上端部から谷間冷気上端部へ向かって形成される気圧傾度に従って空気塊が移動する結果、谷間寒気下端部は高圧となり平野部暖気下端部は低圧となるので、下層では谷間から平野部に向かう気圧傾度が形成され空気塊が移動して河床下流方向へのdown-valley風(down-canyon風、mountain風)となる。down-valley風の上層には反流が形成され、夜間のalong-valley風系が形成される。down-valley風は斜面で冷却された冷気の重力による下流平野部への排出に伴う重力流と捉えることができ、down-valley風は接地逆転を伴った安定成層をなしており、その上限高度は谷の深さとほぼ一致すると考えられている。down-valley風は谷を流下するに従って風速が増加し、谷の平野への出口である谷口で最大風速となり、down-valley風の延長であるvalley outflowジェット(down-valleyジェット)が平野の上空に数km延びることがあるとされる。

 

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